#002 自分に英語を習得するチャンスはどれだけ残されているのか

理想と現実

「英語を話したい! 英語で人とやり取りできるようになりたい!」
そう思って英語を始めた方も多いと思います。私も、そういう気持ちから英語に関心を持つようになった一人です。

でも、その思いだけで走り出すには、現実にはさまざまな壁があります。
特に、自分の年齢、学習に使える時間、英語を使う環境がどれだけ整えられるのか――それらを一度、冷静に見つめ直すことも必要だと思うのです。


年齢と語学習得の関係

様々な研究結果でも言われているように、大人の脳は、子どものように柔軟ではなくなっていきます。
特に発音や流暢さの面では、年齢による影響は顕著です。

私の知人で、台湾からアメリカに移住した一家がいます。
移住当時7歳だった妹さんと、17歳だったお姉さんでは、10年後の英語力に大きな差が生まれていました。

お姉さんも英語を流暢に話せるようになりましたが、強い訛りが残り、文化的にもアメリカ社会にうまく適応できず、結果的に帰国しました。
一方、妹さんのほうはアメリカ社会に自然に溶け込み、今では母国に戻るつもりはないようです。

もちろん、これは一例にすぎませんが、同じ家庭で育った姉妹ですら、年齢によって語学習得や文化適応の度合いがこのようにはっきりと異なることがあるのです。


学生時代の利点

語学を学ぶには、若い時――特に学生時代が最も適していると思います。その理由はいくつかあります:

  • 学習に専念できる時間がある
  • 学校を通じたプログラムなど、留学のハードルが低い
  • 留学後、現地に一定期間滞在できる制度があり、現地就職に役立つ(例:アメリカのOPTなど)
  • 仕事や家庭がある社会人ほどの選択の制限が無い
  • 若いほど語学的・文化的に順応性が高い
  • 若いほど学習対象言語を話す友達が作りやすい(年齢を重ねるほど友達自体が作りにくくなるのと反比例して)

つまり、年齢を重ねるごとに、語学習得にかけられるリソースもチャンスも、少しずつ減っていくのが現実です。


適応度と社会的な評価

多様性の時代になり、「訛りがあってもいい、それも個性だ」と言う人が増えました。
私も個性の尊重は大事だと思います。

「萎縮して何も言えなくなるよりは、ブロークンでいい。気にしないでどんどん話そう!」
これもよく耳にするレトリックです。

けれど、現実はそれほど単純なものでしょうか?

英語圏では “FOB(Fresh Off the Boat)” というスラングがあります。
これは、移民したばかりで英語や文化に不慣れな人を指し、侮蔑的な意味合いを持つこともあります。

日本では、外国人に対して比較的寛容な空気がありますが、英語圏では言語能力や文化的適応度が、その人の扱いに大きく影響することがあります。
特に、競争の激しい移民社会では、英語が不自由なことが不利に働く場面も珍しくありません。

もちろん、自分が高い専門性を持っていたり、特別な立場にある場合には、言語の壁があっても丁重に扱われることはあると思います。
でも、多くの場合、聞き取りにくい英語や不明瞭な表現に対して、常に寛容な対応が得られるとは限りません。


チャンスはある。でも無限ではない

英会話の習得は、年齢や環境の制約を受けるだけでなく、学んだ先に必ずしも優しい世界が待っているわけではありません。

だからこそ、憧れなどの感情ではなく、次のような客観的な戦略で進むことが必要です。

  • 自分の年齢が語学習得に与える影響を受け入れ、そのうえで努力や工夫を積み重ねる
  • 英語圏では言語や文化の適応度が社会的序列を決める要素になることを理解しておく

語学は、何歳からでも学べます。
ただし、対象言語の習得可能性と、対象言語を話す人や土地に近づけるチャンスは年齢とともに減っていきます。

やみくもに進むことなく、自分にふさわしい戦略を立て、英語習得の道を進んでいきましょう。



次回「#003 ペラペラって何?――“主観的な印象”に振り回されないために」では、外国語を話すようになるとよく耳にする「ペラペラ」という言葉について考察しています。
「ペラペラ」とは一体どういう意味なのでしょうか?


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