
英語と英会話とスピーキング
英語を学んでいると言うと、すぐに「じゃあ英会話できるんだ!」とよく言われます。
でも私はいつもこう思います。
「英語=英会話」ではないし、「英会話=スピーキング」でもない。
だから、英語学習者が必ずしも英会話ができるとは限らない、と。
しかも実際には、相手が学習者に合わせてくれていることも多く、本質的なリスニング力や会話の構造理解といった力が、見えにくくなっていることがあります。
英会話教室ではお客さんですし、インバウンド客も、観光の一部として地元の人とやりとりする程度なので、本質的な会話力が試される場とは少し違うのです。
スピーキングとは、自分の考えや気持ちを英語で表現する「話す力」全般のこと。説明力や論理的に話す力も含まれます。
一方で、英会話とは、口頭で相手とやりとりするコミュニケーション。
つまり、英会話には「聞く・理解する・反応する・また話す」という、往復のプロセスが含まれます。
「英会話がしたい」の前に知ってほしいこと
英会話が成立する条件
英会話を成立させるには、意外と多くの条件が必要です。
- 自分が言いたいことを英語にできる
- 相手の英語を聞き取って理解できる
- そして、相手が学習者に協力的である(←実はこれがとても大きい)
これらの条件がそろって、ようやくスムーズな“英会話”が実現しやすくなります。
“お客さん”だと見えないこと
私の知っているヨーロッパ人に、中国語で自分の言いたいことはある程度言えるものの、語彙力が乏しくリスニングが極端に弱い人がいました。
これまで自国で、会話の講師としか話したことがなく、リスニング力が不足して困る状況になったことがなかったそうです。
語学留学でレベルの低いクラスに振り分けられたことに非常にショックを受け、怒っていました。
その人は「中国語で会話ができていた」と思っていたのに、実際は相手が合わせてくれていただけだったのです。
つまり、言いたいことを言えるようになるのは大切ですが、それだけでは本当の会話力がついているとは言えないのです。
英会話=「見えない作文」と「見えない読解」
英会話というのは、実は脳内でライティングとリーディングをしているのです。
- 自分の発言は、頭の中で英文を組み立て、それをリアルタイムで口に出す=ライティング的処理
- 相手の発言は、耳から入る言葉の構造を瞬時に理解する=リーディング的処理
つまり、目に見えないだけで、やっていることは英作文と英文読解なのです。
もちろん、「話す・聞く」と「書く・読む」では、使う感覚器官や処理スピード、アウトプットの形式は異なります。
でも実は、文法処理や意味理解といった認知的な側面では、多くの共通点があるのです。
話すときに頭の中で文を組み立てるプロセスは、書くときと非常に近いものですし、聞くときの理解も、読解と同じように英文構造を読み取っていく必要があります。
単語だけ拾っても限界がくる
初心者のうちは、どうしても「知っている単語」だけでなんとか意味をとろうとします。
たしかに、それでも理解できたり、伝わったりすることはあります。
でも、英語らしい語順、関係詞、時制の一致、前置詞句など――構造をとらえられないと、聞いても理解できない・話しても伝わらないという壁にぶつかります。
見えない「作文力」と「読解力」がカギ
本当の英会話力の土台は、
- 語彙と文法で英語を組み立てる力(作文力)
- 英文の構造をとらえて理解する力(読解力)
この2つです。
これは、英会話を構成している唯一の要素だと思われがちなリスニングとスピーキングを超えて、リーディングとライティングの世界に踏み込むことでもあります。
かっこいいの先にある脳内読み書きの土台
「英語を話せるとなんかかっこいい」というイメージだけで英会話に飛びつくと、なかなかうまくいかないこともあります。
英語を「話す」とは何か?
英会話とはどんな認知的プロセスか?
それを分解して捉え直すと、「英会話」とは何か、「どうやって英会話を成立させることができるのか」がクリアに見えてきます。
「ただ英語を口から発したい」のではなく、言葉を使って相手とやりとりしたい。
そのためには、英会話が何でできているかを認識しておく必要があるのではないでしょうか。
そして、相手が仕事や観光で合わせてくれている上での「英語が話せるとかっこいい」は、本当にかっこいいのでしょうか?
その先まで進んだとき、「脳内での読み書きの土台」が、自らの価値をあなたに教えてくれるはずです。