
聞き流すだけでペラペラに?
「聞き流すだけで英語が話せるようになる」
そんなフレーズを英語学習で目にすることはありませんか?
でも、それは、よく言われるように「子どもの脳」に当てはまる話です。
残念ながら、大人には当てはまりません。
ここを勘違いしている大人が実はとても多いのです。
子どもの脳は非常に柔軟で、高い言語習得能力を持っています。
けれど、成長とともに脳の可塑性(学びやすさ)は低下していきます。
つまり、大人には大人に合った学習法が必要なのです。
聞き流しに必要な“前提条件”
では、大人にとって「聞き流し学習」はまったく無意味なのでしょうか?
実は、ある条件を満たせば、とても効果的な学習法になります。
その条件とは、聞く内容の語彙・文法・発音を、すでに理解していること。
それはなぜでしょうか?
例えばある単語の意味を知らなかったとします。
様々な文脈の中でその単語に何回出会えば、意味を推測できるでしょうか?
それにはどのような環境が必要でしょうか?
文法に関しては、もっと複雑になりますね。
言葉の使い方から、直感的にルールを導き出すなんて。
発音については、聞いた音から単語を覚えると、かえってきれいな発音でインプットできるかもしれません。
でも、そのスペルは推測できるでしょうか?
知っている単語ならできるでしょう。でも知らない単語のスペルは、単純なものでなければ推測できませんし、単純なものでも間違っているかもしれません。
つまり、英語をただ聞き流したからといって、自動的に知らない単語の意味が頭の中で生起したり、知らない文法が理解できたり、発音からスペルがわかって、その意味と自動的につながるなんてことはないはずです。
少なくとも、大人の脳には。
そして、子どもだってスペルは勉強しますし、そのネイティブの子どもが英語で学校教育を受けたかどうかも、耳から聞いたときの理解力に影響してくるはずです。
そのため、もはや脳が柔軟な子どもでもなく、英語で学校教育を受けてもいない大人が、理解をしていないままで英語を聞き続けても、それはただの「英語のBGM」になってしまいます。
いくら聞いても英語が身につかないのは、脳がそれを“意味ある情報”として認識していないからなのです。
まず理解、そして繰り返し
映画やドラマやニュースなどを使った聞き流しでも、同じことが言えます。
「英語字幕で見ていれば、自然と英語が身につく」——それは、多くの人が抱きがちな幻想です。
(※これはあくまで聞き流しに関しての話です。「映画やドラマやニュースの内容をすべて理解していなければ、学習として意味がない」ということではありません。)
まず内容(語彙・文法・発音)をしっかり理解し、そのうえで繰り返し聞く。
この順番を踏むことで、英語の知識が自動化(=無意識・自動的に使えるようになること)され、英語を聞いた瞬間に意味が浮かぶようになります。
私はこれをTEDのスピーチでやっていました。
意味や構造や音に注意を払わなくていい効果は絶大で、TEDのスピーチを繰り返し聞くうちに、意味が自然と浮かんでくるだけでなく、やがて、話し手が本当に伝えたいと思っている内容や、感情の乗せ方にも自然と注意が向くようになりました。
言葉は感情に乗っている方が覚えやすいので、使われている語彙や文法が、感情とともに記憶に残るようになりました。
発音は、スペルとともに既に理解しているので、聞けば聞くほど、自分に深く染み込んで来ている感じがしました。
リエゾンの理解につなげる
発音は、個々の単語の発音だけでなく、それらがつながったときのリエゾンの理解も大変重要です。
スペルを知っていることも、単語の構造を理解することで、どの音がつながりやすいか、脱落しやすいかを予測できるようになります。
スペルには、発音記号では補えない視覚的なヒントが含まれており、発音の構造理解に役立ちます。
たとえ初心者であっても、語彙や文法だけでなく、スペルと発音記号をベースとした「正確な発音」まで理解していれば、リエゾンで本来の形と違って聞こえても、意味と結びつけて聞き取ることができます。
実際、「あれ?今の音、もしかしてあの単語?」と気づける瞬間が増えていくのです。
意味ある聞き流し
土台あっての聞き流し
つまり、「聞き流し学習」は理解できる英語を繰り返し聞くことが前提です。
この条件さえ守れば、「聞き流し」はとても強力な学習法になります。
すでに習得した語彙や文法を、音とともに脳に染み込ませる。
それが、大人にとっての「意味ある聞き流し」です。
もしすでに聞き流し教材を購入してしまっているなら、TEDのように、スクリプトが付いていれば、内容をしっかり学んでから聞き始めましょう。
スクリプトがなくても、今は簡単に文字起こしする方法もあります。
語彙・文法・発音について、誰に聞かれても答えられるくらいしっかり理解してから、聞き流しを始めることをおすすめします。
手間はかかりますが、語彙・文法・発音の学習は、英語習得の土台となる部分なので、理解できていないならば、やるのは当然です。
少し厳しく聞こえたかもしれませんが、語学学習の現実を見て、着実に頑張っていきましょう!
聞き流しの素材はどう選ぶ?
前回の記事「 #019 英語力のゴールは点数じゃないーーCEFRで「できる自分」を目指そう」でご紹介したCEFR(「できること」ベースの英語力指標)を活用すれば、聞き流しに使う素材の選び方にも指針が持てます。
CEFRでは、「どんな場面の会話が聞き取れるか」がレベルごとに記述されているため、自分のレベルに合った素材(たとえば、道案内やレストランの注文など)を選ぶことで、より効果的な学習が可能になります。
たとえば、A2レベルの方がC1レベルのニュース英語に取り組むのは、不可能ではありませんが、相応の語彙・文法・発音の理解が必要になるため、かなりの負荷がかかります。
そのため、無理のないステップで力を伸ばすには、CEFRのレベルに沿った素材を選ぶ方法はとてもおすすめです。
とはいえ、私は個人的に、TEDのような難易度の高いスピーチでも、語彙・文法・発音を一つひとつ丁寧に理解していけば、十分に聞き流し教材にできると考えています。
TED自体は、選び抜かれたスピーチであり、内容そのものの価値が高いだけでなく、話し手のスピーチのやり方も非常に参考になります。
一見、難しすぎるように見える素材でも、タスクを分解して、正しい順番で“自分仕様”にすれば、必ず自分の血肉になります!